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バリケード

1993年1月某日

褐色の太陽が真横にある。
影が長い風景の中、VAB装甲車はターボ音を響かせながら進む。
早朝の快適な空気は一瞬だった、一秒ごとに周りの気温が上がってくる感じがした
運転手のダノ一等兵以外の分隊全員が周囲の状況を監視するためにVAB装甲車のルーフ(屋根)上にいた。
ヘルメットにペラペラの安物ゴーグル、顔には仏軍語でシュシュと言われる長いターバンを
顔や首にぐるぐる巻きにして粉塵と直射日光避けにしていた。
半袖の戦闘服はいいのだが砂漠迷彩の防片ベストは全く空気を通さない。
私が座っている目の前にはラジエターがルーフ面と水平に埋め込まれていて
下からのファンで熱風が私にまともに当っていた。オマケに自分の吐息がシュシュの中に溜まる
「VABの上では最悪の場所だ・・・」
そう思いながら、ゆっくりと仲間を見渡した。
皆、グラグラと頭が揺れていた。
「いまさら場所は代われないな・・・」
全員がそれなりに、日頃の肉体労働と寝不足に耐えていた。
私も昨夜の歩哨に就いていて、ろくに寝ていないので頭がボーっとしてきた。
恐ろしく暑い環境でも睡魔はやってくるものだなと自分自身で感心していた。

「ショミューク!!!!」

小一時間進んだところで突然声が響いた。
見ると前を向いて監視をしていたはずのイギール軍曹が、
後ろのポーランド人のショミューク一等兵に向かって叫んでいた。

「お前!! 今度寝ているところを見つけたら殺すゾ!!」
「はい、軍曹・・・」

前も後ろも監視しなくてはならない軍曹は大変だ。
でも、私たちよりも肉体労働や歩哨に立たずに済むので体力と睡眠には余裕があるのだろう。

しばらく行くと、
左前方に2~3台の車両群が小さくチラチラと低木に遮られながら見え始めた。
狙撃銃のスコープを見ないでも確認できた。
「軍曹・・・」
と私が声を出そうとしたと同時に軍曹は少しかがんで車内で流れる無線に注目し、
運転手のダノに何やら指示をした。
先頭の隊長車がややスピードを上げ、道から外れ左にそれて行く、
後続の車両が砂塵と共にそれに続いた。

そこにいたのはフランス正規軍の偵察部隊であった。
VBL軽装甲車とP4ジープ、カジバ製のオフロードバイクが雑然と待機していた。
意外と隊員たちは気さくで正規軍特有のノンビリとした雰囲気だった。
装備も我々の外人部隊とは違い、各自が選んだ戦闘服やオリジナルの銃器を装備していた。



偵察部隊の隊長と私たちの小隊長が何やら話しているのを横目で見ながら、
私は偵察隊員の一人(アラブ系の先任伍長)に装備について質問をしたりして時間を潰していた。
どうやら偵察部隊の一部が我々と同行するようで、
先ほど装備について話していた先任伍長のジープが後続車に加わるらしい。

「第一分隊が先頭だ! 第三分隊、支援分隊と続け!」小隊長が叫ぶ
「シコは俺の横に来い、お前ら! これから本番だぞ!」軍曹が我々第一分隊の隊員を睨みつけた。
隊長車の傍ら、先へ行けと腕を振って車両誘導しているボーデット小隊長を見降ろしながら
VABがゆっくり進み始めた。
正規軍偵察部隊のジープは我々第一小隊の支援分隊のトラックの後ろ、
隊長車は最後尾でついてくるようだ。
イギール軍曹とシコ伍長が監視域を強化するため、VABのフロントノーズに立った

緊張感が一段と増した

目の前の「褐色の砂と石」の道路は、最近まで地雷埋設の可能性があるとして封鎖されていた道である。
我々の主な任務は、地雷の埋設痕やワイヤーで仕掛けられたブービートラップなどを発見除去し、
道路の安全を確保していく事であった。

遠くが見渡せる平地から次第に低木が生い茂る中を、私たちのVAB装甲車が隊列の先頭を慎重に進む。

時折、道に浮いた不安定な石が籠った音を立ててタイヤに弾かれ飛んでいく、
整備されていない道は、時より大きく車体が傾いてサスペンションの軋む音と共に
隊員たちの身体を揺らし、太陽光線は容赦なく露出している腕の皮膚に突き刺ささってくる。
眩しさで眼も開けていられず、隊員たちはずっと顰めっ面をしている。
朝の気温とは比較にならないほどの高温を重装備に包まれながら体感していた。

しばらく進むと右手側と左手側に薄高い稜線が現れていた。
落差はあまりないが、どうやら谷状の道を進んでいるようだ。

進みながら私の頭に湧いてきた不安は「アンブッシュ(英語)」という敵勢力の待ち伏せだった。
待ち伏せている敵は土地の利を生かして兵員を配置し、
こちらが容易に反撃や退却ができない体制で攻撃してくる。
敵の戦術にハマれば高確率で味方に死傷者が出る。
そのうえ、相手が手錬なら全滅の可能性も十分あった。
私はもう一度装備を点検し、遠くに見える薄高い丘からのRPG-7の発射時の閃光を想像し、
その後に繰り広げられる戦闘を想像していた。

さらに進むと周りに木々が多くなり、見通しが悪くなってきた。

とその時、目の前に道路を塞いでいる検問所らしき建造物が現れた。
一瞬で緊張した空気が隊員たちを包み込み、
防塵カバーから取り出していたFA-MAS小銃を握りしめた。
VAB装甲車は急ブレーキを踏み、みんなルーフの上でつんのめった。

軍曹が双眼鏡を急いで取りだし、その前方の建造物に敵らしき人影がいないか注目した。

VABのアイドリング音だけが辺りに響いていた。

「大丈夫だ、ただのバリケードだ」
軍曹は残念そうにヘッと笑い、運転手のダノに先に進むよう命じた。

近付くと、道路封鎖の為バリケードが道路の真ん中に設置されていた。
それは直径30cmくらいの丸太を×状に組み合わせて有刺鉄線と絡めた雑な作りの物だった。
それにゴミや葉っぱなども張り付いて、動かすにもどこから手を付けていいのか分からない状態だ。
とにかくこのバリケードを道路から排除しないと前には進めない。

「おい、早くどかせろ!」
軍曹が怒鳴った

VABから降りた私を含む5~6人の隊員は、
道路に鎮座しているゴミ化したバリケードを排除するため取り囲み始め、
突き出ている丸太を手掛かりにして転がそうとするが、
何本か丸太が地面に突き刺さっており中々動かなかった。
油断すると有刺鉄線が顔や露出している皮膚に容赦なく突き刺さった。
作業をするには邪魔となる狙撃銃を背中にした私と、FA-MAS小銃を背中にした他の隊員たちの額には、
玉のような汗が噴き出て必死の形相になっていた。

「よ~し、みんなVAB乗れ!!」
息が上がった状態のままVABに乗り込む。
後続の他の分隊は周囲の警戒に当たって手伝ってはくれない。
しばらく進むとまたバリケードがあり、今度は人の背丈ほどもある大岩だった

「うそだろ・・・・」
皆がそう思ったに違いない。
これもまた人力で四苦八苦しながら転がし、
みんなで息を合わせやっとの思いで道路の端に追いやった時は、もうヘトヘトだった。

私は最初からある疑問を持っていた。
VAB装甲車やトラックなどの車両には電動ウインチがあるのに、何故それらを利用しないのだろう?
という事だった。
利用すれば作業は簡単なのでは?と思うのだが・・・。

電動ウインチを使わない理由・・・それは単純に「出し惜しみ」である。

グリスまみれのワイヤーが粒子の細かい土によって汚れるのを整備関係者が嫌い、
出来るだけ使わないようにする平時の習慣が、そのまま実際の戦場まで引きずっていたのだ。
実戦地域、それもいつ武装集団が現れてもおかしくない状況こそ使うべきなのに、
誰も言いださないような普段の思考とは恐ろしいものだ、と今でも思う。
そして、時として表に出てくるこの類の悪習が改善するほどに
いつも実戦をしているわけではない証拠でもある。

このようなバリケード排除作業を夕方までに6回やったと私の日記には書いてある。
余程バカバカしくて辛かったのだろう。


続く・・。


by HOSOKAWA






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[ 2010/08/23 00:00 ] 回想録 | TB(-) | CM(-)